《写真俳句》蘇鉄の冬支度には訳がある。(五島美術館・3)
五島美術館庭園内 世田谷上野毛「五島美術館」庭園である。冬支度ですっかりこもかぶりした植物があった。気になって近づけば「蘇鉄(そてつ)」とある。でも、ちょっとやり過ぎだ。枝ぶりが素晴らしい年代物の蘇鉄なんだろうけど、そんなに積雪も多くない東京でここまでやるか?なんか息苦しそうだ。「過ぎたるは及ばざるが如し」なんて言葉まで浮かんだ。 蘇鉄は、裸子(胎珠が心皮に包まれていない)植物の常緑低木である。鉄を肥料にすると樹勢が増すので、釘を打ち込むと蘇ることから、その名が付いた。 五島美術館美術館庭園内・陶器の象が可愛い。 蘇鉄と言えば、思い出すのはNHKの朝ドラ「らんまん」である。主人公万太郎の親友「波多野泰久」のモデルの植物学者「池野成一郎」が、この蘇鉄の精子を発見した。池野は前年に平瀬作五郎(ドラマでは野宮朔太郎)と顕微鏡の中で運動するイチョウの精子を発見していた。それに続く2年連続大発見だ。世界的にも高く評価される大発見で、その後の植物細胞学の飛躍的な発展に大きく貢献した。現代であればノーベル賞ものの発見だったと言われている。 朝ドラの中では、俳優・前原滉が好演していた。池野は語学の天才で、研究室の学生時代から常に大学の本流に居続けた学者であった。でも彼の凄さは、学閥意識が無く、傍流の牧野富太郎や平瀬作五郎の良き理解者だったことだ。それどころか、年下であったにもかかわず、二人の保護者でもあり続けた。池野がいなければ植物界に二人の名は残らず、結果、朝ドラ「らんまん」も成立しなかったのだ。 五島美術館庭園内・石像が皆、魅力的だ。 そんな池野も蘇鉄の研究では結構苦労する。蘇鉄の研究には東京は寒過ぎたようだ。東京より暖かい鹿児島(当時、行き来に時間的を要する)で蘇鉄を観察した。そもそも東京では十分に成長した蘇鉄を見つけるのが困難、そして温度の低いところでは、動く精子も動かないと予測していたようだ。結果、鹿児島で精子を見事発見!標本を固定し東京へ持ち帰り精子と判断、発表した。 そうだ!調べてみれば、現在も蘇鉄の自生の北限は宮崎県とある。東京で蘇鉄が冬を越えるのは大変なのだ。この全身こもかぶりの姿にも納得!オーバーだとか失礼な前言は、完全に撤回する。万全な冬支度で、この冬乗り切ってくれ!蘇鉄君。