「四長の紐育旅日記」(12)モルガン図書館&美術館〜J・P・M、神になりたかった男の話⁉️
J・P・Mの辣腕ぶりは、現在の金融界でも神話の如く語り継がれている。
盟友とも言えるアンドリュー・カーネギー(リンク)やヘンリー・クレイ・フリック(リンク)とタッグを組みやり遂げた鉄鋼業界の統一(USスチールの誕生)や、19世紀末〜20世紀初頭、米国を何度も襲った金融恐慌をJ・P・Mが中央銀行の役割を演じ、米国の経済を救ったことなど枚挙のいとまも無い。
| 旧邸宅&図書館のエントランス・ホール |
そんなJ・P・M!美術コレクターとしても世界中に名を馳せた。
しかし、あるときから古代のレリーフ、木彫、ルネッサンス期の油彩などは、メトロポリタン美術館へ、ジュエリーコレクションはアメリカ自然史美術館へいとも気前良く寄贈してしまう。
手元には、「稀覯本」(作家のオリジナル楽譜や原稿や下書きや手紙等を含む)だけを残した。そしてそれらを収納する図書館を邸宅の敷地内に建設した。
ニューヨークに来る前、凡人の私には彼の選択が理解出来なかった。何故、油彩や宝石を手放し、残したのが本なのか?私なら、油彩や宝石を残したい。その方が家族と楽しめ、仲間に自慢できるではないか、、、
| 天井に近い半円形の部分にあしらわれている様々な人物像は、詩歌や科学など学問のジャンルを擬人化したもの |
でも、此処にくれば彼の選択が理解できる。この壮麗な美の殿堂ような図書館で、天井まで届く書棚を埋め尽くす稀覯本に囲まれた空間に身を置けば、、、凡人代表の私が言うのも恐縮だが、「J・P・Mは全知全能(彼の場合は全能全知か?)の神になりたかった」のだと、、、
「稀覯本」!(なかなかこれを読める人はいない、「キコウボン」)、「覯(コウ)」は出逢う、巡り合うの意で、「稀覯本」とは「出逢うことが叶わない本」である。
既に国をも救える力、何事も成し得る力、「全能」を持つと言われたJ・P・M!彼にとって世界中から「稀覯本」を蒐集することは、そんなに難しいことではない。
そしてその「稀覯本」のページを開きながら、誰も知り得ない知の世界に接し、自分一人が全てを知る「全知」を感じる。
時には時空を超えて歴史的瞬間に出逢うこと(※)だってあったかも、、、それこそが彼がやりたかったこと、感じたかったことでは、、、限りある人生!彼はそんな晩年を選択した。
上の写真は、彼の書斎だ!想像して欲しい!ウォール街での激務の日々、夜、マディソン街のこの自宅に戻り、一人机に座る。そしてマイライブラリーから選んだ「本日の稀覯本」のページを、誰も知らないシーンに出逢う興奮を想像し、震える指先で捲るJ・P・Mを、、、きっと彼の「全能全知」感!MAXだ。
因みに、当時の彼の有能な司書、ベル・ダ・コスタ・グリーン女史によれば、「あえてモルガン図書館のライバルと言えば、大英図書館とフランス国立図書館!だけど、稀覯本の蒐集にかけてはウチの方がずっと上よ!」だそうだ。国家レベルの蒐集力!脱帽だ。
(※)
例えば、上の写真は9世紀カロリング朝(フランク王国)時代の最高級宝石装丁の聖書、リンダウ福音書。表紙はカール大帝の孫であるシャルル2世が世俗修道院長を務めたサン・ドニ王立修道院で作られた。10世紀から19世紀にかけて、リンダウ島に埋もれていたためその名が付けられた。稀覯本中の稀覯本!凡人は手の震えでページを捲ることさえ不可能だ。