《写真漢詩》小田代ヶ原の貴婦人は苦労人だった。(日光吟行シリーズ4)


  奥日光、昨日の「戦場ヶ原」(※リンク)に続き、今日は隣の「小田代ヶ原」の話だ。2つの原野の境には広葉樹ミズナラの林があるだけだが、2つの原野の性格は大きく異なる。「戦場ヶ原」はズバリ沼地、湿原である。一方、「小田代ヶ原」は湿原から草原への遷移期にあり、両者の特徴を併せ持つ希少な原野なのだ。昨日の話に拘るようで恐縮だが、この「小田代ヶ原」であれば、大軍の合戦も可能であり、「戦場ヶ原」よりも「戦場ヶ原」に相応しい気がする。

 そして、その「小田代ヶ原」の中央部に、一本有名なシラカンバがある。その名も「小田代ヶ原の貴婦人」と呼ばれ、この一本の樹を見るために世界中からファンがやって来る。ミズナラの林を後ろに従え、秋の草原の澄み切った空気の中、白く輝いて見える一本のシラカンバの樹!神秘的でさえある。誰が付けたのかは知らないが「貴婦人」の名に恥じない気品だ。

 貴婦人、英語であれば「LADY(レディ)」である。逆に「LADY」の日本語訳を見ると「貴婦人」と「淑女」の二つが出てくる。そうか、「小田代ヶ原の淑女」の可能性もあったかと思ったが、どうもしっくりこない。此処はやっぱり「貴婦人」だ。「淑女」と「貴婦人」の違い、、、ともに「洗練された女性」の意だが、その後に「淑女」は「慎ましく淑やかな女性」とあり、「貴婦人」は「身分の高い女性、高貴な女性」とある。お付き合いするなら、私は断然「淑女」の方だが、このシラカンバの近寄り難い高貴さは「貴婦人」が正解と納得した。

   だが、実はこの貴婦人、なかなかの苦労人だった。草原に一本だけすくっと立っているのは、仲間が皆、鹿にやられたのだ。シラカンバの樹皮は鹿の好物の一つ、樹の周りを一周食べられてしまうと、シラカンバは水を吸い上げられなくて枯れてしまうのだ。貴婦人の仲間たちは皆んなウエストあたりを一周食べられて死んでしまった(鹿もあどけない可愛い顔をして結構悪い奴だ)。逆に一周ではなく数センチ、皮が残れば樹は生きられる。貴婦人はその数センチの皮で鹿の襲来の悲劇から生き延びたのだ。

 でも、また鹿に襲われないのか?と私は心配になった。鹿は繁殖力が極めて強く、個体数は右肩上がりで増えていると聞く、今度、大群で貴婦人を襲ってきたらどうするのだ、、、地元の人に尋ねれば、現在は対策は取られていると言う。2001年から「戦場ヶ原」と「小田代ヶ原」を囲む形で、鹿の侵入を防ぐ防鹿柵(ネットフェンス)が設置されているのだ。「貴婦人は、その名に相応しく高い城壁で守られているのか。」少し安心した。



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