《写真漢詩・短歌》日本の夜を変える。石井幹子『浅草寺夜景』


  照明デザイナー・石井幹子の代表作の一つ、「浅草寺夜景」だ。私が最初に石井幹子を認識したのは、1995年、NHK衛星放送の「わが心の旅 フィンランド 光の夢」を見たときだ。

 当時私は「わが心の旅」のテーマ曲(立原摂子・作曲)が大変気に入っていた。毎回、番組冒頭に流れるこのテーマ曲をしっかり聴き、番組自体は途中で失礼してしまうのが大半だった。でも、この石井幹子の回は鮮明に覚えている。

 大まかな内容は、「彼女は、若い頃、日本の照明(と言うか日本の夜景?)に大いに疑問を持ち、答えを求めて北欧へ旅立つ、そして『ある答え』を見出す、、その軌跡を何十年後に再び辿る。」と言うものだった。
 
 正に「わが心の旅」で心に沁みる番組だった。そして、私はこの番組を見て、日本の夜の照明が少しづつ素敵になっているのは、彼女の仕事であったことを初めて認識した。

 そう言えば、、、あの頃、私も思ってはいた。

「最近、なんか東京タワーや東京駅、レインボーブリッジ、歌舞伎座等々のライトアップが急にセンス良くなっている気がする、、、」

「東京の色々な建物が穏やかな光、温かみのある光に包まれて、夜の闇の中から浮かび上がっている気がする。前からこうだっけ、、、」ってな感じには思ってはいた。

 でも。一方で、それはそれまで照明の違いなんて真剣に見ていなかったので、気が付かなかっただけだろうとも思っていた。

 しかし、そうではなかった。一人の女性デザイナーが、一つ一つ変えていたのだ。もう現代では違うだろうけれど、あの頃彼女には、素敵な照明を企画することよりも、苦労したことがあったそうだ。ライトアップする対象の建造物の所有者を納得させることだ。でも、その苦労のお陰で、東京の夜は、美しくなった。東京だけではない、大阪も京都も、、、日本の夜が、格段に。



 ところで、前述の「わが心の旅」で彼女が見つけた「ある答え」って何なのか?実は番組の中では、彼女は答えらしきものを見出したとは言ってはいるが、その答えの内容は明確にしてはいなかった。答えは作品を見て判断してくれということだろう。それも納得だ。

 でも私は、最近あるインタビュー記事で、彼女がその答えを話しているのを見つけてしまった。それは「日本人の月明かりへの憧憬」だ。

 彼女曰く「満月の夜はこよなく美しい。まち全体を照らす満月の清らかな光を大切に、それを生かす景観照明を考え続けている。」と、、、

 本日の写真は浅草浅草寺の境内、満月の光の中、人々がそぞろ歩きしている。みんな時どき夜空を見上げ月を探す。まるで「かぐや姫」の降臨を待っているみたいに、、、



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