《写真漢詩》明日地球が滅びるとも、、、


  上の漢詩「莫忘話(忘れること莫かれの話)」は、2020年、コロナ禍が世界に蔓延した頃詠んだ。世界中がなす術も無く、唯々感染しないことを祈り、家の中に閉じこもっていたときだ。漢詩の3、4句の「明日地球は滅びるとも、君は今日林檎の樹を植える。」は、宗教改革を始めたマルティン・ルターの言葉と言われている。その後、ルーマニアの作家ヒルジル・ゲオルギウが自らの小説の中でルターの言葉として紹介して世界中に広がった。日本では開高健が、この言葉が好きでよく引用していたようだ。私は石原慎太郎が「開高健が好きな言葉」として話している記事を読んでこの言葉を知った。


 言葉の解釈も色々だが、私は「どんな酷い状況下でも、今、自分の出来ること、自分がしなければならないことを粛々とやれ!」と解釈している。恐らく主流派の解釈だ。そんなことを思い出す嬉しいニュースが先週あった。今年のノーベル生理学・医学賞をハンガリー生まれのカタリン・カリコ博士ら、メッセンジャーRNAワクチンを開発した二人が受賞するという知らせだ。

 カリコ博士らのワクチン研究は、30年前から始まっていたそうだ。でもワクチン開発の歩みは遅々として進まない。それが新型コロナウイルスの世界的流行で開発が一気に加速、コロナ禍のゲームチェンジャーとなった。地球上の何億という人の命を救い、結果、世界中の経済活動もなんとか立ち直ることが出来た。正に「人類の命の恩人」だ。

 そして私個人にとっても「命の恩人」だ。一番最初のワクチン接種の後、「ああ、これで生き延びたな。」と思い、周囲が急に明るく見えた不思議な感覚を今も覚えている。ノーベル賞受賞は当然だ。しかしタイムリー!私は「さすがノーベル賞!」と嬉しくなった。


 そんなカリコ博士、新聞やテレビの報道を見るとかなりの苦労人だ。順風満帆の研究人生からは対極にあるような人だ。東西冷戦下のハンガリーから、娘のテディベアのぬいぐるみの中にドル紙幣を隠して渡米するくだりなど、聞けば涙ぐましい気持ちにすらなる。(将来、彼女の生涯が映画化やドラマ化されれば、絶対に使われるシーンである。)しかし、彼女の研究は渡米後も決して順調ではなかった。大学を転々とし、降格にもなったという。でも諦めなかった。地道に基礎データを積み上げ結実させた。

 自分の研究がいつか人類を救う確信があったのだろう。それで彼女は、林檎の樹を植え続けることが出来たのだろう。



 今も、世界の何処かで、林檎の樹を植え続けている研究者がいる。それをいつか未来に讃えるのがノーベル賞だ。毎年そんな気持ちで受賞者をリスペクトしている。でも、今年の12月の授賞式は格別だ。何しろ今年は私の直接的な「命の恩人」が受賞する。


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