《写真漢詩・短歌》京都吟行シリーズ(14)四長、苔寺の緑が目に沁みる。



「西芳寺」、通称「苔寺」。京都、洛西の名刹である。名前の通り、広大な寺の庭全体が苔で覆われている。そしてその苔の種類は120種に及ぶ。そのため、上の短歌で詠んだ通り、太陽光線の加減により、多様な緑の濃淡が移ろい、繊細に表情を変える。


 「西芳寺」は開山は行基であるが、中興開山は夢窓疎石である。疎石は鎌倉末期、南北朝、室町時代に活躍した禅僧。南北朝の時代も後醍醐天皇の南朝側、足利尊氏の北朝側、双方からリスペクトされ政治的にも相当な力を持っていた。疎石は作庭家としても有能で、現代に於いても枯山水の完成者として、世界史上最高の作庭家と言われている。


 夢窓疎石の庭は全国にあるが、京都に於いては、天龍寺(此方は疎石自身が開山)と此処西芳寺が有名だ。共に「古都京都の文化財」として世界遺産に登録されている。でも二つの庭園の印象は大きく異なる。特に色の印象が。私はある仮説を立てた。「疎石は天龍寺を『白い砂』が美しい方丈庭園に造った後、次はその対局にある様な『緑の苔』で覆われた庭園を造りたかったのだろう。ポイントはやはり色だ。」と。なかなか良い仮説だと気に入っていた。

湘南亭・幕末に岩倉具視が此処に匿われた。

 しかし、そんな仮説は簡単に崩れる(人に披瀝しなくて良かった)。パンフレットを見れば書いてある。何と此処・西芳寺も最初は(疎石が作庭したときは)枯山水の庭園で、庭が苔で覆われたのは、ずーっと後の時代、江戸時代後半のことだそうだ。すぐ近くを川が流れる谷間という湿潤な環境が影響したのだろう。そうか、苔寺を作ったのは先ずは自然だ。それを人間が手入れして現代の名園となったのだ。絶妙なバランス!漢詩も出来ました。



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