《写真漢詩》四長、フィレンツェで天国の門を叩く。(海外シリーズ・シーズン4・エピソード5)


 イタリア・ フィレンツェの「天国の門」である。11世紀建築の八角形をしたサン・ジョヴァンニ洗礼堂の3つの扉のうち、ドゥオモの真正面にある扉である。製作者はロレンツォ・ギベルティが、30年の年月を費やし完成させた。

 彫られているのは、旧約聖書の「創世記」の場面である。キリスト教に不案内の私にはわからなかったが、信者にとっては10枚のパネルに「創世記」の名場面が余すことなく詰め込まれており、感動ものだそうだ。

 ルネッサンスの旗手、ミケランジェロも感動した一人で、思わず「これは天国の門だ」と呟き、以来この門は「天国の門」と呼ばれるようになった。だから、冒頭私も「天国の門である」と書いてしまったが、正しくは「天国の門と呼ばれている扉」だ。

 さて、この「天国の門」と呼ばれている扉だが、1966年にフィレンツェを襲った大洪水で被害を受け、修復作業が必要になった。そして今後も同様な災害もありうるとして、本物の扉はドゥオモ付属博物館に移され、保管されることになってしまった。

 すると私が見た「天国の門」は何だということになるが、それは精巧に創られたレプリカだ。しかし、このレプリカ!唯のレプリカではない。一人の日本人の寄付によって創られたものだ。その日本人とは、おしゃれの街・銀座を創った男と呼ばれる「サンモトヤマ」の創業者、茂登山長市郎氏!氏の「サンモトヤマ」は、グッチ、エルメス、ロエベなどを日本に紹介した。

 氏は「若い頃にヨーロッパブランドの洗練された世界に触れた。その経験があってこそ今の自分がある。今度はその恩返しがしたい。」という思いでレプリカを寄付したという。カッコ良い粋な話だ。1990年のことだ。

 バブル崩壊前夜、日本が一番元気だった時代だ。その時代、日本は世界中の土地や建物、そして美術品を買い漁ったが、今はその殆どを失った。でも氏がフィレンツェに残したレプリカは、恐らく半永久的にサン・ジョヴァンニ洗礼堂の扉で輝き続けるだろう。

ドゥオモの手前が、サン・ジョヴァンニ洗礼堂

 そんな「サンモトヤマ」も2019年破産、2020年には法人格も消滅した。茂登山長市郎も2017年に永眠した。

 一般のキリスト教徒のイメージでは「天国への門」のイメージは、雲の上にあり、「天の国の鍵」の番人のペテロによって守られている。そして、天国行きにそぐわないものは、ペテロによって入場を拒否されるそうだ。

 成程!天国行きも、そんなに甘くはないんだな。でも、ペテロがどんなに厳しい番人であっても、茂登山長市郎氏だけは例外だ!歓待し、入場させたに違いないと私は思う。

銀座・サンモトヤマ本店


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