《写真短歌》四長、ホテル・ニューグランドから北斎の神奈川沖浪裏を眺める。(横浜吟行2)


  横浜・山下町の「ホテル・ニューグランド」の高層階より、本牧埠頭方面を眺めた。薄曇りの天気のせいか、眺めはソフト・フォーカスだ。林立するクレーン達もぼんやりと霞んでいる。眼を凝らせば、沖合に一隻、二隻とコンテナ船が姿を現す。そして穏やかに差し込む光の加減で、煌めいたり消えたりを繰り返している。「本日も、本牧沖合、波静かだな」と思った瞬間、ある一枚の絵(浮世絵)の存在を思い出した。

 そう葛飾北斎の「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」である。天才・葛飾北斎の浮世絵の中でも傑作と言われ、世界的にも有名な一枚だ。北斎の70歳の頃の作品だ。


 荒れ狂う波濤、波に揉まれる3層の小舟、うねる波間から富士山が見え隠れするという劇的な構図である。世界中の浮世絵コレクターが絶賛するのも、この構図故だ。

 何故私がこの絵を思い出したのか。それは絵のタイトルの「神奈川沖浪裏」にある。「神奈川沖」とは「神奈川本牧沖」ともいわれている。(北斎はこの絵の三十年前、ほぼ同じ構図で「神奈川本牧沖」を描いている。)そうすると、絵の中の大波に翻弄される小船の位置は、もしGPSで現在に置き換えれば、コンテナ船がのんびり停泊しているあの位置・本牧沖となる。でも、あまりにも違いすぎないか?早速スマホで調べてみた。

 答えは調べてみると簡単だ。北斎が見た光景と私が見ている光景の間に、大土木工事が行われたということだ。北斎の頃には、あの辺りには「本牧の鼻」と呼ばれる断崖が切り立つ景勝地があり、潮流が複雑に流れる豊かな漁場があった。それが、戦後の土木工事で、崖が削られ海岸が広範囲に埋め立てられた。そしてその上に、現代の本牧の埠頭や倉庫、工場が建てられたのだ。

 北斎がタイムマシンで現代に現れたら、一番びっくりする景色だと思う。「ワシの、神奈川本牧沖を返してくれ!」とか、いうんじゃないかな。

埠頭のクレーンたちは首の長い恐竜・ディプロドクスに似ている。



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