《写真漢詩》四長、函館でトルストイに浸る。(函館吟行シリーズ3)


      昨日のブログで、函館の街とロシア文化の幸せな関係について書いたが、日本国全体でも1970年代くらいまでは、ロシア文化について憧憬のようなものがあったと思う。トルストイやドストエフスキーの小説は、学生のバイブル的存在であったし、演劇界も人気の劇団民藝や俳優座の年間の演目の半分以上は、その二人にチェーホフを加えたものだった。TVやラジオや歌声喫茶(そんなのがあった)でも、フォークソングと同じノリでロシア民謡が歌われ、みんな、ロシアの雪の白樺並木をトロイカに乗って疾走する気分を味わったものだ。


 ゴルバチョフのペレストロイカが始まる前は、ソ連は鎖国状態みたいなのだった。それ故、皆んな行くことも、見ることも出来ないロシア文化に憧れのようなものを抱いていたのかも知れない。(ベルリンの壁が崩壊して見えてしまったソ連の実相、最近のプーチン政権の所業で、ロシアへの憧憬も、すっかり萎んでしまった感があるが、、、)

 そして、その日本人のロシア文化への憧れのかなりの部分を作り上げたのは、私はロシア文学、中でもトルストイの存在だと思う。トルストイは圧倒的な理想主義、博愛主義の作家だ。戦前までの日本の文学者でトルストイの影響を受けていない作家はいない。鴎外も漱石も、自然主義や社会主義の作家たちも、白樺派の作家たちに至っては、生き方そのものまでも真似ているように思われる。そうした作家たちの書いた本を通じて、一般の日本人の思想、考え方にトルストイが染みて行った。


 ということで、冒頭の漢詩のタイトル「露小説」はトルストイの作品だ。函館の街の風情にぴったりだ。私は函館の街へ旅するなら、その前にトルストイの小説を味わってから行くのをお勧めする。「復活」「アンナ・カレーニナ」何でも良いが(「イワンの馬鹿」以外)、私はやはり「戦争と平和」をお勧めする。ナポレオンとの戦争の時代のロシア貴族社会を描く大群像劇(登場人物559人)だ。ロシア文化のエッセンスが詰まっている。

 でも、それは大変だと思う人が殆どだろう。当然だ。私は「トルストイの小説を味わって」と書いた。「読んで」ではない。私のお勧めは、配信ドラマ(全6話)の視聴だ。2016年、英国放送協会制作の「戦争と平和」、映画だとどうしてもダイジェストになり過ぎだが、この配信ドラマは過不足無い。主役の一人ナターシャ役のリリー・ジェームズ(ダウントン・アビーのローズ役)が少し明るすぎるが、私はそれも気に入っている。函館旅行前にトルストイに浸る。これに勝る事前準備は無い。




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