《写真漢詩》四長、中禅寺湖でフクシマを考える。(日光吟行シリーズ1)

 

 栃木県・日光の中禅寺湖である。湖畔に立つ「旧英国大使館別荘」で漢詩を詠んだ。中禅寺湖は最近では吉永小百合がモデルを務めたJRの「大人の休日倶楽部」のCMのロケ地として有名だ。そして此処は明治から昭和初期にかけては、人気の国際的避暑地であった。そのため、今も当時の各国の大使の夏の別荘が残り、多くは中を見学することが可能だ。皆、瀟酒な造りで、海外ドラマの見過ぎの私は、この地で、国際ロマンスやスパイ活劇が繰り広げられたのかと妄想が止まらない。(ロマンスやスパイ活劇はともかく、西欧の大使たちは、家族団欒のバカンスを、ボートやヨット遊び、そして魚釣りに興じ過ごしたようだ。)

旧英国大使別荘


旧イタリア大使別荘

  
  そんな人気の避暑地・中禅寺湖が、ごくごく最近まで福島第一原子力発電所の事故の影響を受けていたこと、あまり皆さんも知らないと思う。私もこのブログを書いていて初めて知った。

 実は中禅寺湖の水産業やゲーム・フィッシングが、放射性物質汚染の影響で、長く大きな制約を受けていたのである。魚種別に漸次解禁されたが、最も長く制約を受けていたのは、日本で唯一この湖で繁殖しているとされる「レイクトラウト」だ。体内の汚染濃度が減衰した2023年3月まで、一切の持ち出しが禁止されていたそうだ。(科学的且つ慎重な対応には敬意を表したい。)

 私も、此処を訪れたとき(2021年6月)は、その事実を全く知らなかった。中禅寺湖!福島県の隣県栃木県にあると言っても、湖があるのは県の西の端である。直線距離で100km以上はあるだろう。そして時間も10年以上という結構長い年月が経っている。想像出来なかった。

 発電所では津波の後、爆発やベントで放射性物質が拡散した。あの日の風向き、海洋と違う湖というある意味閉鎖的環境、そんな条件が、幾つも重なっての汚染であろう。放射能汚染という目に見えない災害の不気味さを改めて感じさせる話だ。長い時間翻弄された地元の人の割り切れなさも、想像するとやりきれない。美しい湖の写真を見返しながら、複雑な思いが交錯した。

美しすぎる湖の風景、当時、私は放射性物質汚染を連想することはなかった。

 

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