《写真漢詩》四長、霧の軽井沢で「避暑地の猫(宮本輝作)」を読む。


  昨年9月の軽井沢である。天気予報が全く外れて、軽井沢は完全に霧の海に沈んでいた。軽井沢は「霧の軽井沢」と呼ばれ、年間100日〜120日は霧が発生する。但し、この霧、結構局地的で街の北東側で濃く、西に行くほど薄まり、追分辺りまで行けば、霧の影響は殆ど無くなるという。

 街の北東側といえば、旧軽井沢(縮めて「旧軽」)と言われている地区である。旧軽銀座や万平ホテルがあり、その周りをそれぞれが広大な敷地を持つ昔からの別荘群が囲む地区である。私たちのようなホテルに泊まる旅行者にとっては、「霧の軽井沢も風情があって悪くない。」で済む。だが、別荘族にとっては霧はイコール湿気であり、対策に結構な経済的負担を余儀なくされる悩みの種でもあるようだ。逆に言えば、霧(湿気)との戦いに耐えられる経済力を持った人だけが、別荘族になれるということだ。



 そんな旧軽の別荘の中で繰り広げられるドラマを描いた宮本輝の小説がある。「避暑地の猫」である。ひと頃のブームは落ち着いたが、宮本輝は文学界でも指折りの人気作家である。唯、この「避暑地の猫」の評判といえば、あまり良くない。宮本輝ファンに聞いても、「宮本輝の小説は皆んな好きだが、「避暑地の猫」だけは好きになれない。」という人が殆どだ。

 宮本輝自身も「悪い人間だけが登場する小説を書いてみたかった。」と言っているので、それが影響していると思う。でも、それなら何故宮本輝は、そんな悪人ばかり出てくる小説を書こうとしたのか?その原因を、私は最近この小説を読み返していて発見した。

 小説の主人公は、「修平」というこの旧軽の別荘地の中でも指折りの豪邸の管理人の息子である。そして別にもう一人、小説の影の主役というべき存在がいる。それは「霧」である。霧が悪の病となって、「修平」をそして周りの人物たちを犯していくのである。

 宮本輝は、この小説の執筆の大半を軽井沢でしたと聞いた。宮本輝もきっとこの「霧の病」に犯されたのではないか?私はそう睨んでいる。何しろ、旧軽の別荘地は、一年の3分の1は霧に沈んでいるのだから、、、、


 実は、評判悪い「避暑地の猫」だが、私はそんなに嫌いではない。初めて読んだ時も、読み返した時も、一晩で一気に読んでしまった。今度また軽井沢で霧の夜に読み返したいとも思う、、、危ない危ない、そんなことを思う私も、ひょっとしたらもう「霧の病」に犯されているのかもしれない。

 

 



このブログの人気の投稿

≪写真漢詩≫四長の『現代漢詩論』

《写真漢詩・短歌》臨時増刊・四長、江東区でプリツカー賞を堪能する。

仙台堀日記・臨時増刊号《写真漢詩・短歌》四長、磯谷渚監督作品「ポーラーナイト」を語る。

《写真俳句》臨時増刊・四長、横須賀美術館で山本理顕氏のプリツカー賞受賞を祝う‼️

《写真漢詩》四長、ウィーンで「第三の男」を追跡す。