《写真漢詩》四長、亀戸天神門前「船橋屋」を応援する。(夏の亀戸吟行3)

 


 船橋屋である。亀戸天神の門前、くず餅の名店である。

 くず餅と言っても、京都の鍵善のような葛を使用したものではない。船橋屋のくず餅は乳酸菌入り(健康に良い)の小麦澱粉だ。厳選された大豆を焙煎したきな粉と沖縄産の黒蜜、これらが相俟って「秘伝の味」として、芥川龍之介・永井荷風・吉川英治などの文豪に深く愛された。

 その船橋屋が、2022年創業以来の危機に陥る。八代目店主の不祥事だ。新聞などによれば八代目店主は自らの過失により、交通事故を起こしながら、非を認めず相手に対して暴言や乱暴を働いた。そして、その映像がネットのインフルエンサーによって投稿され全国に拡散されたのだ。

 更に同じタイミングで、八代目店主がパワハラ体質で、ベテランの職人たちの多くが退職を余儀なくされていたことも露見した。SNS上で大炎上だ。店主の交通事故不詳事もさることながら、ベテラン職人たちの退職というのは不味い。秘伝の味への直接的影響を想像してしまう。私はネットやマスコミの記事をそのまま信じることはしないが、くず餅を目当てに亀戸天神へ通うモチベーションが著しく低下してしまったことは確かだ。

 唯、この大スキャンダルにも救いはあった。船橋屋の大炎上後の対応が極めて早かったのだ。炎上翌日には八代目店主は社長を退き、創業以来初めて創業家出身ではない41歳の女性社長が誕生した。私は船橋屋の内部事情は知らないし、新社長の実力も人となりも全く知らない。でも、此処までのスキャンダルから老舗を立ち直らせるためには、このレベルの荒療治・大手術は必要だ。

 新社長は、就任以来、積極的にビジネス雑誌のインタビューに応じている。私も2、3誌くらい拝見した。社内改革を衆人環視のもとに透明性高くやろうとしている姿勢には覚悟を感じる。そして慌てずに、先ずは社員のモチベーションの回復を優先的に考えている様子は好感が持てた。

 頑張ってくれ新社長!責任は重大だ。私だけなく江東区民にとって、船橋屋のくず餅は、ただのくず餅ではない。亀戸天神と一体化した重要アイテム、下町文化そのものだ。亀戸天神にお参りした後、船橋屋本店のカフェ一で寛ぎ、くず餅に舌鼓を打つ。(夏にはかき氷もアリだ。)そんな日々が一日も早く帰って来ることを祈っている。



 漢詩は事件の一ヶ月前に詠んだ、スキャダルなどまだ知る由も無い頃だ。写真中央の暖簾、白地に書かれた「船橋屋」の文字は、文豪・吉川英治の筆だ。吉川英治は毎朝、トーストにくず餅の黒蜜を掛けていたという話が伝わるくらいの船橋屋ファンであった。揮毫を頼まれても大きな字は書かなかった吉川英治であったが、「船橋屋は特別だ。」と書いてくれたという。風に揺れる暖簾の「船橋屋」の文字、吉川英治も憂いているのか?心配しているのか?いやきっと応援しているに違いない。頑張れ「船橋屋」!

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