《写真短歌》四長、義母の写経の秘密に迫る。
家人の母、つまり私の義母は本日7月16日が誕生日で満90歳、卒寿である。名古屋の介護施設に入っているが、心身ともにしっかりして元気だ。
元気の源は、彼女のルーティンワークである「写経」ではないかと思う。「写経」、文字通り、経文を写すことである。印刷技術が発達していなかった時代は、「写経」こそが仏教伝導の手段であったのだろう。しかし現代社会に於ける「写経」の目的は多岐に亘るものになっていると思う。
まず①精神集中である。文字を書くという行為は精神集中が無ければ成し得ない。邪念や怒りは払われ自ずと心は安定する。また集中が無ければ、字が乱れるので、自分の精神状態のチェックにも役立ちそうだ。
次に②認知症予防にも有効であろう。紙や筆を整え、一字一字正確に書き写して行く過程は認知症予防のルーティンワークとして最適だ。
後、意外に思うかもしれないが、③体力維持・向上にも役立つと思う。字を書くと言う行為は結構体力を要する。私は最近、手書きの書類を作成するだけで汗をかく。それだけ、腕や指先に力を込め、動かすのにエネルギーを消費しているからだろう。若い頃には絶対に無かった症状だ。また書道の上手い人は姿勢も良い、良い姿勢を保持するためには腹筋の強化が必要だし、逆に良い姿勢を維持すれば、腹筋も鍛えられる。
そして最後は、やはり④信仰だ。書き写すのは「般若心経」などの有難い経文である。書き進めるごとに救われる実感が募り、天国が少しづつ近付いてくる。天国が近づけば、死も怖いものでなくなるのかもしれない。
義母からは家人に定期的に手紙が来る。必ず定型文言のように、「早くお迎えに来て欲しい。」「長く生き過ぎた、終わりにしたい。」と書かれていると家人は気にする。でも私は最近、義母の「早くお迎えに来て欲しい」「終わりにしたい」と言う発言には、「写経を此処まで重ねれば、もう天国の門は見えている。死は怖くない。」との自信の無意識の表れだと思うようになった。
写経!恐るべし!老境に於ける最強のルーティンワークだ。
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義母は茶道・華道も嗜む風雅の人でもある。(花は白地に赤、千宗旦好みと言われる宗旦木槿) |