《写真短歌》作曲家シリーズ(7)ヨハン・セバスティアン・バッハ「無伴奏チェロ組曲」
私には死ぬまでに実現したい夢が幾つかあるが、その中でも難易度が高いと思っていたのが、これだ。「東京、お茶の水の『カザルスホール』で、バッハの無伴奏チェロ組曲を聴く。」である。チェロの演奏家は上手いに越したことはないが、そんなに拘らない。拘っているのは演奏会場、「カザルスホール」だ。
バッハの無伴奏チェロ組曲については、私はヨーヨー・マの演奏をよく聴くし好きだ。しかし、既に鬼籍に入った演奏家まで選択肢を拡げるとすれば、行き着くところはスペインのパブロ・カザルスだろう。何しろ、カザルスが、埋もれていたバッハの無伴奏組曲を発見し、チェロでは演奏不可能と言われていたのを、新たなチェロの奏法まで編み出し演奏可能としたのだから。
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| カザルスホールの内部撮影は現在叶わないので、バッハのイメージを私なりに考えて 私が撮影したコルドバのメスキータ(聖マリア大聖堂)の写真を使用した。 |
その弦楽器演奏の歴史的巨人の名を冠した演奏ホール「カザルスホール」が東京・御茶の水にあった。あったと過去形にしたのは、今も「日本大学カザルスホール」として残ってはいるが、全く休業状態だからだ。(図書館として使われていると聞いた。)嘗ての様に海外の著名な室内管弦楽の演奏者によるコンサートは開かれなくなって久しい。あの巨人カザルスの名の前に、一私立大学の名を更に冠するというセンスも如何なものかと思う。その上、世界的な巨匠が憧れるほどの良音が響く名ホールを、図書館だか事務棟だかに使用しているというのに至っては、、、それはもう文化芸術面における国家的な損失を日々垂れ流していると言ってもいいだろう。
情けない。もう諦め、「死ぬ前に実現したいリスト」から外しかけたとき、救世主が現れた。新しい日本大学理事長林真理子氏だ。彼女は、自らが理事長を引き受ける3つの条件のうちの一つとして「カザルスホールの復活」を掲げたのだ。私は恐らく彼女がそれを条件にしたのは、一番は日本大学のイメージアップであろうが、彼女自身の音楽愛好家としての夢実現であるような気がする。個人的な夢で結構!あのややこしい日本大学の理事長を引き受けるのだ。そのくらいのご褒美があって良い。お陰で私の夢も叶うかもしれない。
《カザルスホール》1987年建築家 磯崎新氏の設計により誕生した511席の室内楽専用のホール。数々の国内外の演奏家による室内楽のコンサートが開催されたが、ホール所有者が主婦の友社から日本大学に変わった以降は、そうした催しは開かれていない。唯一無二の音質とウィルアム・ヴォーリスを模した外観等々で傑作ホールと呼ばれ、国内外の文化人による「カザルスホールを守る会」も結成されている。
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| 上写真2枚 現在(2023年6月)の「日本大学カザルスホール」 |



