《写真漢詩》四長、奈良で小説の神様に再会する。(飛鳥・大和路シリーズ)

 




 上は、奈良市高畑町の「志賀直哉旧居」で詠んだ漢詩、七言律詩と詩を詠んだ背景の簡単な解説である。

 その中で書いた様に、若い頃は志賀直哉の作品が好きでなかった。どこから「小説の神様」なんて評価が出てくるんだろうと正直思っていたくらいだ。でも、年をとるに従って、彼の作品はともかく、生き方はカッコイイな、興味深いなと思う様になっていった。

 そんな志賀直哉だが、今回のコロナ禍で注目を浴びた。短編小説「流行感冒と石」、そのテレビドラマ化「流行感冒」(本木雅弘主演)によってである。小説は若い時に読んだが、そのときは、そんなに深い印象を持たなかった。でも不思議、今回のコロナ禍が始まって、改めて読み直すと印象は全然違った。1919年〜20年の日本でのスペイン風邪の大流行の話だが、内容はまるで今回のコロナ禍を描いたのではと思わせ、令和の読者(含む私)の心に時空を超えて寄り添った。

 「スペイン風邪流行」の経緯を追った写実的描写、感染症流行時であるからこそ、剥き出しになる人間の複雑な心理描写、そして白樺派の作家らしく、人間肯定的、向日的な終幕へ自然に導く志賀直哉の筆致は「小説の神様」に相応しいと今更ながら感心した。


 その志賀直哉が自ら設計したのが、この「志賀直哉旧居」だ。高畑サロンと呼ばれ、当時の名だたる文人・画家にとっては、このサロンに呼ばれることが、名誉であり憧れであったとのことだ。屋敷の隅々まで、志賀直哉の美的センス、合理的精神が貫かれており、上品且つお洒落、今も古さを一切感じさせない空間だ。


  そして屋敷内には、志賀直哉の業績等を説明する資料の展示が一切無い。合理主義であった志賀直哉は生前、自らの資料館・記念館を作ることを禁じたそうだ(この辺もカッコイイ)。此処は、今もその指示に忠実に従っている。だから何回かの復元・改修工事を経ても、サロンの佇まいは当時の儘だ。

 お陰で、令和の私たちも、まるで志賀直哉に招待されて、此処にいるといった昂揚感も味わうことが出来る。奈良へ行ったら行かない手は無いと思う。お勧めだ。

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