《写真短歌》京都吟行シリーズ(10)デビット・ボウイが涙した庭
京都の洛北の禅寺、正伝寺である。デビット・ボウイが1979年の暮れ、焼酎のCM撮影に訪れ、この庭を見て涙を流したという話が伝わる。何故、今日、正伝寺の話かといえば、一昨日、坂本龍一が亡くなった(3月28日逝去)報に接したからである。
私は昨年の晩秋、正伝寺を訪れた。ボウイの涙した庭を見たかった、見て色々と想いを巡らしかったからである。紅葉の盛りを過ぎた寺は他に人もなく貸切状態。同行した家人と「ボウイと禅宗」の話などしていたが、私の頭の中は、全く別のシーンを思い出していた。1983年公開の大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」の有名なボウイと坂本龍一のキスシーンである(家人には言えない)。現在に至るも「映画史上最も美しいキスシーン」と呼ばれるあのシーンである。今も、あの時の二人の表情が時が止まったように残っている。
ボウイがこの寺を訪れたときから、5年後に映画が公開された。しかし映画の企画・キャスティングは、既に1978年から始まっていたとの話も聞いた。ボウイは映画への出演を熱望していたので、ひょっとすると此処で涙したときは、既に映画のことを意識していたのかもしれない。そんなことをつらつら考えていると、妄想(瞑想ではない)は止まらなかった。(ボウイは1980年米国の「プレイボーイ誌」で坂本龍一と対談している。流石に、そのとき坂本龍一とのキスシーンまでは意識していなかっただろうが、、、)
でも、そんな二人がもういない。2016年にボウイが、そしてこの3月28日、坂本龍一が逝ってしまった。二人とも、偉大なるミュージシャンであり、役者でもあった。時に政治的な発言もし、一世を風靡した。まさに「時代の寵児」という言葉が相応しいスターだった。
昨日は、テレビでもネットでも世界中の著名人の坂本龍一追悼のコメントが溢れていた。そして、その中にボウイの息子で映画監督のダンカン・ジョーンズとボウイのオフィシャル・アカウントの追悼ツィートがあった。「戦場のメリークリスマス」のポスターとツーショット写真が添えられ、ボウイと坂本龍一が、映画の後も長きに亘ってお互いをリスペクトし続けていたことを偲ばせる呟きだった。時の流れは早く、切なく、でも少し優しい。