《写真漢詩》四長、傘立てを想う。

  世界中からハグ(hug)が消えた。まだコロナが猛威を振るっていたときだ。日常的にハグの習慣の無い日本人の私でも、ネットやテレビの画面から、あんなにハグしまくっていた欧米の人たちが、ハグの代わりにグータッチとかしているのを見るのは寂しかった。そんなときだ、彼に出逢ったのは、、仙台堀から木場公園を抜けて、門前仲町へ向かう路地、小さな美術ギャラリーの前に、彼は静かに立っていた。思わず足を止めてしまった。そして30秒くらいの間に漢詩が降りてきた。彼の佇まいを描写するだけで詩になったのだ。



 そう、とてもがっしりした安定感のあるフォルムの傘立てだ。この傘立てにはどんな傘が似合うか考えてしまった。シックな女性用の傘も似合う。(若き日のカトリーヌ・ドヌーブの顔が浮かんだのは「シェルブールの雨傘」のせいか。)色とりどりの何本もの子供用の傘というのも微笑ましい。(でも、あまり小さな子供用の傘だと、ハグが空振りになり倒れてしまうから注意が必要だ。)

 しかし、一番良く似合うのは、少し古びた紳士用の黒い傘だ。「お疲れ様、よく頑張ったな、大丈夫、少し休めよ。」って、彼が中年や初老の男性の背中をさすっているというのも様になる気がした。(おそらく自分が傘になって、彼にハグをして欲しかったからだろう。)

 私は勝手に彼の名前を考えた「包容力のある傘立て」だ。

仙台堀の壁面アートと植物とのコラボ・4月6日撮影

 それから季節は流れた。コロナはもう完全収拾に向かっている。そしてそれに合わせるようにハグも復活してきた。先日のWBCでダルビッシュや大谷翔平が、勝利の瞬間見せた男同士のハグも迫力があり感動的だった。ニュース番組で見るG7とかで欧米の首脳たちがハグしている姿も、絵的にはグータッチより遥かに友好関係が伝わり効果抜群だ。今、まるで「ハグが消えた時間」など無かったかのように、世界中が沢山のハグで溢れている。

 でも、私は時々彼のことを思い出す、あの日私のことを静かに励ましてくれた佇まいを、、またいつか、彼に逢いたいと思った。


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